「届けたい人に届いたか」の先——買う気のある人を数え、売場へつなぐ
unBoxed Tokyo 2026で語られたオンターゲット率と、5 co.のConsidex。届いた人の属性と、買う気のある人の数は別の問いです。当社のプロパゲーション(Propagation)では、売場からさかのぼり、見込み化と誘導までを並べて見ます。
2026年11月4日のunBoxed Tokyo 2026では、ネスレ日本のペットケア(ピュリナ ワン)が登壇し、動画広告が届けたい人に届いているかを測る「オンターゲット率」が語られました。登壇の起点の問いは、「あなたの広告は届けたい人に届いていますか?」でした。届いた人の属性を確かめることと、買う気のある人の数を確かめることは、重なりつつも別の問いです。5 co.のConsidexは後者を推計します。当社がプロパゲーション(Propagation)と呼ぶ枠組みでは、売場からさかのぼり、見込み顧客を売場へつなぐ段までを並べて見ます。
※本稿に登場する登壇の数字は、すべて「登壇で公開されたネスレの事例」として紹介します。5 co.が効果を主張するものではありません。スライドに付された「過去の1事例であり、効果を保証するものではない」という注記を、ここでも前提とします。また、ブランドリフトの数字は、広告に接触したと答えた人の自己申告と、接触した人/しなかった人の比較に基づきます。この比較だけでは、広告が原因で差が生まれたとまでは言えません。
オンターゲット率は、届いた人の質を見る
オンターゲット率(広告が届いた人のうち、届けたい属性の人が占める割合)は、リーチの多さだけでは見えない到達の質を問う指標です。ニールセンも、日本のデジタル広告でオンターゲット率を整理・公開しています。
届けたい属性が狭いほど、この問いは重くなります。一般社団法人ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」2024年では、猫の**世帯飼育率は8.61%**です。世帯の大半が対象外になりうるカテゴリーでは、「何人に届いたか」より「届けたい人に届いたか」が先に立ちやすい、ということです。
登壇のスライドでは、大きな数字として**9.3%**も示されました。会場で撮影したスライドでは、この9.3%が何の割合か・出典は何かを示す説明文は読み取れませんでした。協会の世帯飼育率(8.61%)とは、定義や出典が同じとは限りません。本稿では、協会の公開統計は8.61%、**登壇スライドに出た数字は9.3%(定義・出典はスライド上では読み取れず)**と書き分けます。両方を同一の「猫飼育率」としては扱いません。
登壇で示されたネスレの事例(公開スライド)
以下は、Amazon Ads unBoxed 2026 Tokyo の登壇スライド(会場で撮影)から拾った事実です。登壇者の個人名と代理店名は出しません。スライド上で「動画媒体A」と伏せられている媒体名は、伏せたままにします。
過去調査と、2026年の合同プロジェクト
ネスレが自社で行った過去のアンケートでは、Amazon DSPの猫関心セグメントの猫飼育率が、比較対象の動画媒体Aの猫関心セグメントに対して**×300%(3倍)**と示されました。
2026年は、ネスレ・代理店・Amazonの3社合同プロジェクトとして進められた、とスライドにあります。流れは次の三つです。
- 広告実施 — Prime Video広告と、ほかの動画媒体5社で、同じ期間に、猫の飼い主に関わるセグメントで配信した
- 第三者によるブランドリフト調査 — 猫を飼っているかを尋ねる聴取型調査(n=73,575)。スライド注記では、調査設計についてAmazonが調査ベンダーを通じて支援したとあります
- AMCでの深掘分析 — 調査回答者のシグナルを Amazon Marketing Cloud に載せて分析
スライド上のファネル図は、上から「遭遇(Encounter)→ 検討(Consider)→ 購買(Purchase)」と三段に分かれています。これは登壇側のパーチェスファネルの見せ方です。当社のプロパゲーション(見込み化 → 誘導 → 売場)とは向きが異なります。
商品はピュリナ ワンです。
動画6媒体のなかでの猫飼育者率
同じ期間に実施した動画広告6媒体のなかで、Prime Video広告の猫飼育者率が最も高かったと発表されました(スライド上の見出しは「No.1」。当社の言い回しとしては「No.1」は使いません)。
※ここでいう猫飼育者率の定義(スライド原文の要約): 当該の動画媒体で、このキャンペーンのクリエイティブを見たと答えた人のうち、「家に猫がいる」と答えた人の割合。
猫を飼っている人/飼っていない人のブランドリフト
猫飼育の有無で比べたブランドリフト調査の結果として、次が示されました。
| 猫飼育なし | 猫飼育あり | |
|---|---|---|
| ブランド認知 | 12% | 61% |
| ブランド好意 | 3% | 37% |
| ブランド購買意向 | 2% | 32% |
出典: Amazon unBoxed 2026 Tokyo 登壇スライド(会場で撮影)「猫飼育有無によるブランドリフトサーベイ結果比較」。注: 過去の1事例であり、効果を保証するものではない。自己申告・接触有無の比較であり、因果は言い切れない。
猫飼育者における、広告接触あり/なしの認知
猫を飼っている人に限った Purina のブランド認知では、次が示されました。
| 媒体 | 広告接触なし | 広告接触あり |
|---|---|---|
| 動画媒体Aの動画広告 | 60% | 64% |
| Prime Video広告 | 60% | 72% |
出典: Amazon unBoxed 2026 Tokyo 登壇スライド(会場で撮影)「猫飼育者に対する広告効果比較」。注: 同上(事例・非保証・因果は言い切れない)。
Amazon内の購買率比較(AMC)
Amazon内の購買率について、次の三段の比較が示されました。
- 猫飼育なし × Prime Video広告接触なし(基準)
- 猫飼育あり × Prime Video広告接触なし — 基準に対して約13倍
- 猫飼育あり × Prime Video広告接触あり — 2(猫飼育あり・接触なし)に対して約8倍
※「約8倍」は、基準(飼育なし・接触なし)に対する倍率ではありません。スライドの矢印は、飼育あり・接触なし → 飼育あり・接触あり、を指しています。
※「猫飼育なし × Prime Video広告接触あり」はボリュームが足りず抽出不可、と注記されています。
※分析期間は配信期間+28日。対象は Purina 製品の購買。前後順の特定は未対応、と注記されています。
※過去の1事例であり、効果を保証するものではない。接触の有無は調査・分析上の区分であり、この比較だけで広告が購買を生んだとは言い切れません。
登壇側のまとめ(スライド)
スライドのまとめでは、オンターゲット率×オンターゲットへの広告効果、実購買から作られたシグナル、CPMやリーチ単価ではなくOTRに着目する、といった論点が示されました。本稿では、その主張の当否を検証しません。5 co.が同じ結論を保証するものでもありません。
図1|登壇スライドの主な数字(点検用)
| 項目 | 数字 | 何と比べたか/定義 |
|---|---|---|
| スライド上の大数字 | 9.3% | 定義・出典は登壇スライド上では読み取れず |
| 協会の世帯飼育率 | 8.61% | ペットフード協会2024・世帯 |
| DSP過去調査 | ×300% | Amazon DSP猫関心 vs 動画媒体A猫関心 |
| ブランドリフトn | 73,575 | 第三者調査の回答者数 |
| 認知/好意/意向 | 61/37/32 vs 12/3/2 | 飼育あり vs なし |
| 飼育者の認知 | 60→64(媒体A)、60→72(PV) | 接触なし→あり(飼育者内) |
| 購買倍率 | 約13倍/約8倍 | 13倍=飼育あり接触なし÷飼育なし接触なし。8倍=飼育あり接触あり÷飼育あり接触なし |
出典: Amazon unBoxed 2026 Tokyo 登壇スライド(会場で撮影)。注: 過去の1事例。効果非保証。因果は言い切れない。
Considexが測るのは、買う気のある人の数
届いた人が、届けたい属性だったかは、一つの答えです。その人が、商品を知っていて、理解していて、買う気があるか——つまり見込み顧客か——は、別の答えです。
Considexは、5 co.の特許にもとづく調査サービスです。アンケートで商品を知ったきっかけを聞き、広告の配信結果と結びつけて、買う気のある人の数とその変化を推計します。測るのは見込み顧客です。広告がこの人数をどれだけ動かしたかを、購入の前の段階でとらえます。
特許は、第7344770号とその分割の第7397520号で、特許権者は株式会社5、発明者は若松武志です。内容は特許のページにまとめています。公報では、見込み顧客を「知って(認知して)おり、かつ理解しており、購入意思がある」人と定義し、広告表示回数・広告ページアクセス数・広告ページ誘導率といった配信結果と、見込み顧客数の変動を結びつける相関モデルを生成します。
購入の有無や購入先は、追加の設問として聞くことができます。公開のコアは、認知から検討(買う気)までです。売場側の接触として公報が明示するのは、広告対象物が掲載されたコンテンツの閲覧(【0039】)と、購入・購入メディア等の設問例(【0045】)までです。それ以外の「売場」の改良は、特許の範囲の外として扱い、ここでは書きません。
図2|オンターゲット率とConsidexが答える問い
| オンターゲット率 | Considex | |
|---|---|---|
| 主な問い | 届けたい属性の人に届いたか | 買う気のある人は何人動いたか |
| 出発点 | 到達の質(属性) | 見込み顧客の人数推計 |
| 媒体の扱い | 配信先の到達を媒体ごとに見る場面が多い | 知ったきっかけを媒体横断で聞く |
| 購入・売場 | 行動までつなぐ設計もある | コアは買う気まで。購入・購入先は追加設問 |
出典: 5 co.による点検用の概念整理。
注: 優劣の比較ではありません。
重なるところと、違うところ
重なるのは、「売上の手前で、広告が誰に効いているかを見ようとする」点です。違うのは、出発点です。オンターゲット率は属性への到達精度、Considexは見込み顧客の人数です。届いた人が買う気まで動いたかは、属性が合っていたかとは別の確認になります。
プロパゲーション:見込み化 → 誘導 → 売場
ブランド成長の枠組みとして、バイロン・シャープらは、メンタルアベイラビリティ(購買の場面で思い出されやすいこと)と、フィジカルアベイラビリティ(見つけやすく買いやすいこと)を対にして語ります。当社の言い方では、前者は「想起」、後者は「売場」に近いです。
想起した人は、自分で検索して売場に来ることがあります。その人には、あらためて誘導する必要はありません。誘導の対象は、まだ想起していない見込み顧客です。オフサイトで見込み化した人を、売場へつなぐ段です。
当社のプロパゲーション(Propagation)は、この流れを「見込み化 → 誘導 → 売場」として並べます。シャープの想起と売場のあいだに、誘導を置きます。特許公報では、見込み顧客の推計(見込み化)と、配信結果に含まれる広告ページ誘導率(誘導の測定)と、広告対象物が掲載されたコンテンツへのアクセス(売場側の接触)が、同じモデルのなかで扱われます。特許の範囲は公報の請求項と明細書に書かれたことに限ります。
向きの整理は、ロジャーズの普及理論とプロパゲーションでも書いています。漏斗は狭まり、普及は広がる——そのうえで、当社のプロパゲーションは売上構造を売場から外へ広げる枠組みです。ファネルからプロパゲーション・マネジメントへ、という主張の骨格は別稿にまとめています。
図3|プロパゲーションの三段
想起(メンタルアベイラビリティ)
│
│ 見込み化(買う気のある人を増やす・確かめる)
│ │
│ ▼
│ 誘導(見込み顧客を売場へつなぐ)
│ │
▼ ▼
売場(フィジカルアベイラビリティ)
出典: 5 co.による点検用の概念整理。メンタル/フィジカルは Ehrenberg-Bass/シャープ周辺の公開説明と朝日Business Hubの紹介に沿う。特許の対応は公報の定義・請求項に沿う。
注: 効果を保証する図ではありません。登壇結果の図でもありません。
Considexが担うのは、主に見込み化——買う気のある人の数を推計し、配信との関係を見ること——です。誘導と売場は、プロパゲーションのなかで別の観測と施策につなぎます。
売場からさかのぼる見方(木のたとえ)
広告の効果を、認知から順に下へ絞る漏斗だけで見ると、売場で起きていることが後回しになりがちです。ECの実務では、先に売場の買いやすさを見て、そこから接点や認知の側へさかのぼることがあります。
たとえとして、企業の総売上を幹、購入チャネルを枝、売場の買いやすさを細枝、売場への誘導を葉、見込み顧客へのメンタルな接点を樹冠の外側、と並べる見方があります。これがプロパゲーションのイメージです。漏斗が上から下へ絞るのに対し、木のたとえは下(売上・売場)から外へ広がります。ロジャーズの普及理論が、採用が社会のなかで広がる過程を描くことと、向きが近い、という整理です(人が採り入れる心理そのものを測る枠組みではありません。詳しくはロジャーズの記事)。
これは仮説の概念整理です。効果を保証するものではありません。
ブランドオーナーが選ぶべき問いは、目的で決まる
届けたい属性に届いているかを先に確かめたいなら、オンターゲット率が先に立ちます。買う気のある人がどれだけ動いたかを先に確かめたいなら、Considexのような見込み顧客の推計が先に立ちます。売場で見つけやすく買いやすいかを先に確かめたいなら、売場の指標が先に立ちます。
unBoxed Tokyo 2026で語られたオンターゲット率は、「正しい人に届いたか」を正面から問うものでした。5 co.のプロパゲーションは、その先に「買う気のある人は何人か」と「その人を売場へつなげたか」を、売場からさかのぼって並べて見ます。売場起点の測定順と、想起の有無で誘導を分ける定義は、パーチェスファネルからプロパゲーション・マネジメントへも参照してください。
参考文献
- Amazon Advertising Events「unBoxed Tokyo 2026」https://www.amazonadvertisingevents.com/unBoxedTokyo2026
- Amazon unBoxed 2026 Tokyo 登壇スライド(会場で撮影)
- 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」2024年 https://petfood.or.jp/pdf/data/2024/3.pdf (猫の世帯飼育率 8.61%)
- ニールセン オンターゲット率関連リリース(2020年5月19日)https://www.netratings.co.jp/news_release/2020/05/Newsrelease20200519.html
- Amazon Ads「ブランドリフト」https://advertising.amazon.com/ja-jp/measurement-analytics/brand-lift
- IPA(Ward & Sharp)https://ipa.co.uk/knowledge/ipa-blog/three-common-mistakes-in-awards-entries/
- Ehrenberg-Bass Institute(Romaniuk & Dunstone)https://marketingscience.info/news-and-insights/sink-or-soar-standing-out-in-the-e-commerce-world
- 朝日Business Hub「メンタルアベイラビリティ・フィジカルアベイラビリティ」(2025年9月16日)https://adv.asahi.com/series/commentary/16008710
- Everett M. Rogers, Diffusion of Innovations, 5th ed., Free Press, 2003
- 5 co. Insights「漏斗は狭まり、普及は広がる——ロジャーズの普及理論と、5 co.のプロパゲーション」https://5co.ltd/insights/rogers-diffusion-and-propagation/
- 5 co. Insights「パーチェスファネルからプロパゲーション・マネジメントへ、時代は変わる」https://5co.ltd/insights/purchase-funnel-to-propagation/
- 特許第7344770号/第7397520号(JP7344770B2/JP7397520B2)公報PDF(Google Patents経由)
5 co. 代表取締役CEO 若松武志
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