漏斗は狭まり、普及は広がる——ロジャーズの普及理論と、5 co.のプロパゲーション
ロジャーズの普及理論の四要素・採用者区分・五つの特性・五つの段階を原典に沿って整理し、ファネルとの向きの違いと、5 co.のプロパゲーション(売場起点の売上構造)との違いを示します。
新しい考え方が、人のあいだにどう広まるか。社会学者エベレット・ロジャーズは、その過程を普及(diffusion)として整理しました。初版は1962年、いま広く参照されるのは第5版(2003年)です。本稿では、原典で確かめられる範囲だけを使い、5 co.のプロパゲーション(Propagation)との違いを示します。
普及の四つの要素
ロジャーズは、イノベーションの普及を、新しい考え方がコミュニケーションの経路を通じて、時間とともに、ある社会システムの成員のあいだに伝わる過程として定義します。四つの要素は次です(第5版第1章)。
- イノベーション(新しい考え方・技術・実践)
- コミュニケーションの経路
- 時間
- 社会システム
出典: Rogers, E. M. (2003). Diffusion of Innovations (5th ed.). Free Press. Chapter 1, “Four Main Elements in the Diffusion of Innovations”(目次上 p.11 付近。目次PDFで確認)。
採用者の五つの区分と、キャズム、「16%の壁」
採用の早さによって、人を五つの区分に分ける整理があります(第5版第7章)。割合は市場調査の実測ではなく、採用時期を正規分布とみなして標準偏差で区切った定義上の値です。
| 区分(英語) | よく使われる日本語 | 割合 |
|---|---|---|
| Innovators | イノベーター | 2.5% |
| Early Adopters | アーリーアダプター | 13.5% |
| Early Majority | アーリーマジョリティ | 34% |
| Late Majority | レイトマジョリティ | 34% |
| Laggards | ラガード | 16% |
出典: Rogers (2003), Chapter 7(目次上、区分の説明は p.272 付近から)。
ジェフリー・ムーアのキャズムは、この五区分をハイテク製品の文脈で読み替えた別の議論です。アーリーアダプター(ビジョンを求める層)とアーリーマジョリティ(実利を求める層)のあいだに深い溝(chasm)がある、とします(Moore, 1991, Crossing the Chasm, HarperBusiness)。ロジャーズの曲線が連続であるのに対し、ムーアは断絶を強調します。
「16%の壁」について。 日本のマーケ解説では、イノベーターとアーリーアダプターを足した約16%を越えると普及が加速する、と語られることがあります。これはロジャーズが単一の閾値として定式化した数字ではありません。2.5%+13.5%の足し算(正規分布の区切りの丸め)に由来する、後からの実務的な言い方です。ロジャーズが共著した論文では、相互作用型イノベーションのクリティカルマス点は「おおよそ10〜20%の採用」と幅で書かれています(Mahler & Rogers, 1999)。16%の壁とキャズムは、同じ付近を「越えれば広がる」「そこで止まる」と逆向きに読むことがある点にも注意が必要です。
図1|採用者区分(ロジャーズ)とキャズム(ムーア)
Innovators 2.5% | Early Adopters 13.5% || Early Majority 34% | Late Majority 34% | Laggards 16%
↑ ↑
(「16%の壁」と ムーアのキャズム
呼ばれる足し算の位置) (断絶の主張)
出典: 区分の割合は Rogers (2003) ch.7。キャズムは Moore (1991)。「16%の壁」は後続の解釈(本文参照)。
注: 図の読み方: 左から採用が早い層です。二重線はムーアが主張する断絶の位置です。「16%の壁」はロジャーズの公式な閾値ではありません。効果や成功を保証する図でもありません。
普及の速さを決める五つの特性
新しい考え方が速く広まるかどうかは、受け手から見た次の五つの特性で説明されることが多い、とロジャーズは整理します(第5版第6章)。
- 相対的な優位性(いまのものより良いと感じるか)
- 両立性(既存の価値・経験・ニーズと矛盾しないか)
- 複雑さ(理解・利用が難しいと感じるか。難しいほど遅い)
- 試せるかどうか(小さく試せるか)
- 他の人から見えるかどうか(結果が見えるか)
出典: Rogers (2003), Chapter 6, “Attributes of Innovations and Their Rate of Adoption”(目次上 p.219 付近。五特性の見出しは相対的優位性 p.229、両立性 p.240、複雑さ p.257、試行可能性・観察可能性 p.258 付近)。
一人が採り入れるまでの五つの段階
個人(または意思決定単位)がイノベーションを採り入れる過程は、五つの段階としてモデル化されます(第5版第5章)。
- 知識(存在を知り、どう動くかを理解する)
- 説得(好意的/非好意的な態度を形成する)
- 決定(採用するか拒否するかを選ぶ)
- 実行(実際に使い始める。再発明が起きうる)
- 確認(決定を補強する情報を求める。撤回もありうる)
出典: Rogers (2003), Chapter 5, “The Innovation-Decision Process”(目次上 p.168 付近)。
5 co.の視点:ファネル・普及・プロパゲーション
ファネルは、認知から購買へ上から下へ狭まる形で語られることが多いです。ロジャーズの普及は、採用が社会システムのなかで広がっていく過程を描きます。向きが違います。
さらに、ロジャーズが扱う中心は、人が新しい考え方を採り入れるときの心理と社会です。四要素も、五区分も、五つの特性も、五つの段階も、採用者側の過程に軸足があります。
5 co.のプロパゲーション(Propagation)が扱うのは、それとは別の層です。売場の売上を起点に、購入チャネルと売場の買いやすさ、見込み顧客を売場へつなぐ誘導、その外側のメンタルな接点へと、売上の構造を広げて測る枠組みです。業務の短い言い方では「見込み化 → 誘導 → 売場」です。特許(第7344770号・第7397520号)では、見込み顧客の推計と、広告ページ誘導率を含む配信結果の相関が公報に書かれています。特許の内容は特許のページにまとめています。見込み顧客の数を推計する調査がConsidexです。
図2|ファネル・普及・プロパゲーションの違い
| ファネル(よくある語り方) | ロジャーズの普及 | 5 co.のプロパゲーション(Propagation) | |
|---|---|---|---|
| 向き | 上から下へ狭まる | 採用が社会のなかで広がる | 売場・売上から外へ広がる |
| 主な対象 | 段階の通過・転換 | 人が採り入れる心理と社会 | チャネル・誘導・売場の売上構造 |
| 代表的な問い | どの段で落ちたか | 誰が、なぜ、いつ採り入れたか | 売場で捕まえ損ねていないか、見込み顧客を誘導できたか |
出典: ファネルは階層効果モデル等の通念的整理。普及は Rogers (2003)。プロパゲーションは5 co.による点検用の概念整理。
注: 図の読み方: 三つは測るものが違います。優劣を示す表ではありません。ブランドオーナーが目的に合わせて選ぶための対比です。
オンターゲット率のように「届けたい人に届いたか」を問う議論は、プロパゲーションでは樹冠の外側(メンタルな接点の質)に近い問いです。Considexは、見込み化——買う気のある人の数——を推計します。ロジャーズの五段階は、その人の内側で何が起きているかを理解する助けになりますが、売場の在庫や検索での見つかりやすさそのものを測る枠組みではありません。
参考文献
- Rogers, E. M. (1962). Diffusion of Innovations. Free Press.(初版。本稿の細部は第5版による)
- Rogers, E. M. (2003). Diffusion of Innovations (5th ed.). Free Press. ISBN 9780743222099。目次確認: ETH Library TOC PDF https://toc.library.ethz.ch/objects/pdf03/e06_978-0-7432-2209-9_01.pdf (2026-11-06 curl 200)
- Moore, G. A. (1991). Crossing the Chasm. HarperBusiness.
- Mahler, A., & Rogers, E. M. (1999). The diffusion of interactive communication innovations and the critical mass: the adoption of telecommunications services by German banks. Telecommunications Policy, 23(10–11), 719–740. https://doi.org/10.1016/S0308-5961(99)00052-X (2026-11-06 curl 200)
5 co. 代表取締役CEO 若松武志
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